قصة الكتاب :
新潮社/2012年/220ページ/本体1600円/ISBN 978-4-10-456305-0 辻原 登 1945年和歌山県生まれ。1985年に「犬かけて」でデビュー。1990年「村 の名前」で芥川賞、1999年『飛べ麒麟』で読売文学賞、2000年『遊動亭 円木』で谷崎潤一郎賞、2010年『許されざる者』で毎日芸術賞など。 2012年には紫綬褒章を受章。
<そろそろ父のことを正確に書かなければならない、と彼は考えている>。冒頭の 一文である。「彼」はたちまち「私」と言い換えられ、私小説的と形容されそうな物 語が展開されていく。だが、そこに広がり出す出来事の数々は、生々しくもフィクショ ナルな興きょうしゅ趣に満ちている。現代日本で随一の物語作家というべき辻原登は、この作品 で私小説から自在な語りの愉ゆ えつ悦を引き出してみせた。 亡き父親に生前の姿を取り戻させる冒頭の一編を皮切りに、帰還と再生の運動を描 き出す。心にしみる名編というべき「夏の帽子」では、忘れていた昔の恋人の面影が 不意に蘇生する。「チパシリ」や「虫王」といった短編は、「私」による語りの枠を離 れて、奇き たん譚の魅力を存分に堪能させてくれる。前者における、シャバへの帰還を繰り 返す脱獄囚や、後者における、漢民族の復興を夢見る者たちの運命を通して、回帰の 主題が豊かに変奏される。 ふたたび「私」の両親を登場させる、巻末の夢幻的な作品「天気」に至るまで、著 者はいずれの短編でも、戻ってくる何者かとの一瞬のすれ違いを鮮やかに演出してい る。そこに私たちは、辻原文学にとって根源的な魅惑の瞬間を見出すことができるだ ろう。(NK)
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