قصة الكتاب :
集英社(集英社文庫)/2014年/464ページ/本体740円/ISBN 978-4-08- 745248-8 堀江 敏幸 1964年岐阜県生まれ。大学院在学中にパリ留学を経て大学講師となる。 1995年に留学経験を綴った『郊外へ』で小説家デビュー。『おぱらばん』 で三島由紀夫賞、『熊の敷石』で芥川賞、「スタンス・ドット」で川端康 成文学賞、同作所収の作品集で2004年に谷崎潤一郎賞と木山捷平文学賞 を受賞。
最近、日本では「イクメン」という新語が聞かれるようになってきた。積極的に「育 児」をする男性、という意味である。社会が変化した結果、ジェンダーの意識も変わ り、夫婦のうち男性が休職して家で育児をするケースも見られるようになった。堀江 敏幸の描き出す長編は、そんな世相から生まれるべくして生まれた「イクメン小説」 といえるだろう。主人公は独身の男性なのだが、地方都市で新聞社に勤めているとき、 弟の妻が病気で入院したため、弟夫妻の赤ん坊を預かることになる。 「なずな」とは、その赤ん坊の名前。最初はほんのちょっとのつもりで預かった主 人公だったが、弟が外国で交通事故に遭ってしまい、思いがけず預かって育児をする 期間が長引いてしまう。慣れない育児に取り組んで奮闘する主人公の姿を、時にユー モラスに描き出していく。 この小説の最大の美点は、男の視点から見た幼児の生命のみずみずしさが、繊細か つ叙情的に描かれていることだろう。<閉じられたまぶたの細い皺までが、なぜか胸 を打った。赤ん坊というのは、こんなにやわらかく目を閉じられるものなのか>。生 命の傷つきやすさと尊さをこれほど鮮やかに教えてくれる小説は少ない。(NM)
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