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قصة الكتاب :
新潮社(新潮文庫)/2003年/375ページ/本体552円/ISBN 978-4-10- 116104-4 河野 多惠子 1926年大阪府生まれ。1963年「蟹」で芥川賞、1969年『不意の声』およ び1977年『谷崎文学と肯定の欲望』で読売文学賞、1980年『一年の牧歌』 で谷崎潤一郎賞、2002年『半所有者』で川端康成文学賞など受賞作多数。 女性初の芥川賞選考委員も務めた。2014年に文化勲章を受章。
不思議な「愛」の物語だ。表向きは大学卒業と同時に恋愛結婚した、ほどよく豊か な関西出身のカップルが、シドニー、ロンドン、ニューヨーク……と一流商社に勤め る夫の転勤にともなう長い海外の生活で、それなりの苦労を重ねながらも仲むつまじ く暮らし続けるという、1960年代の高度成長期を背景にした、幸福な熟年夫婦の回想 記である。幸福が持続し得たこと自体が、もっとも小説になりにくいテーマであり、 希有な物語だといえるかもしれない。だが、幸福を支えることになった事故と傷痕が 冒頭で克明に描かれ、この夫婦が共有したであろう、麻薬のようなある嗜好について、 ほんの少しずつ明かされていく。そしていつの間にか読者は、良識ある市民生活の中 に潜む、特異な「愛」のかたちを想像し、小説の醍醐味をたしかに受け取るであろう。 長編の「秘事」に登場するのは三村という名の夫妻であり、併録されている短編の 「半所有者」に登場する夫婦の名は久保という。しかし、二組を同一の夫婦と想定し て読んだほうが、感かんきょう興は深まるかもしれない。「半所有者」で描かれるのは、亡くなっ た妻の遺体を自宅に迎えた晩、夫が敢行した究極の「愛」の行為であり、これをもっ て夫婦の愛は完結したのだった。谷崎潤一郎のマゾヒズムを愛してやまない作家は、 クライマックスへ向けて周到に、ささいな出来事と描写を張りめぐらせる。河野多惠 子ほど精せ いち緻な小説を構築する技量を持つ作家をいまだ知らない。(OM)
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