قصة الكتاب :
講談社/2014年/307ページ/本体1600円/ISBN 978-4-06-218774-9 村田 喜代子 1945年福岡県生まれ。1987年『鍋の中』で芥川賞、1990年『白い山』で 女流文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年『望潮』で川端康 成文学賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこ う』で読売文学賞を受賞。
雨漏りの修理のためにやってきた男は、大柄で一見不愛想な中年男だった。しかし 主婦の「私」は一人、黙々と作業に取り組むその仕事ぶりに惹かれる。やがて彼は重 い口を開いて、屋根の上での仕事の苦労や、日本式家屋を雨から守る上での瓦の大切 さを語り始める。12年前に妻に先立たれた男は、神経症を患い、仕事中、発作的に屋 根から飛び降りたくなるほど追いつめられたことがあった。その危機を、彼は夢日記 をつけるという手段によって乗り越えたのだった。いまでは自分の好きなように夢を 見る術を身につけたと男は言う。その話に興味をかきたてられ、普段は夢一つ見ない 熟睡が自慢の「私」も、夢の世界を意識するようになる。そして屋根屋の導きのもと、 いつしか「私」と彼は夢の中で落ち合い、二人で旅を楽しむようになる。自由に空を 飛ひしょう翔し、日本の仏閣からフランスのゴシック式カテドラルまで、大きな建物から建物 へとめぐっていく旅の連続である。「私」にとってそれは、夫も高校生の息子もあず かり知らぬところでの、自由と冒険の経験だった。しかし「私」と男の間には、夢の 中の相棒というだけではすまない強い感情が芽生え始める。 作者は、軽妙な語り口のうちに、日常からの離陸を願う主婦の気持ちの揺れを見事 に捉え、幻想的な愛のかたちを描き出している。<物欲も性欲も、我執みたいなもん も、体ごと一緒に消えてしまいそう>な不思議な愛の境地が、そこにはたしかに出現 しているのだ。(NK)
|