قصة الكتاب :
新潮社(新潮文庫)/2012年/318ページ/本体520円/ISBN 978-4-10- 139141-0 窪 美澄 1965年東京都生まれ。広告制作会社勤務を経てフリーの編集ライターに。 2009年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞 作を所収した『ふがいない僕は空を見た』で2011年に山本周五郎賞を受 賞。同作はタナダユキ監督により映画化されトロント国際映画祭に出品 された。
5つの物語からなる、連作短編集である。助産院の息子のエピソードが縦軸に描か れており、5編は時空のずれをともなってスパイラル状にゆるやかにつながっている。 一つめの物語は、コスプレ趣味を持つ主婦との台本に沿った不倫遊技におぼれる助 産師の息子の視点から、二つめでは、不妊クリニックに通う元いじめられっこのオタ ク主婦の視点に切り替わる。やがてそれが最初の物語に登場したコスプレ主婦と同一 人物であることに読者は気づく。続く物語では、息子のガールフレンドや貧困にあえ ぐ同級生、性癖に苦しむバイトの先輩の日常が描かれる。 同じ出来事が他者の視線から照らされていくにつれ、遠景として描かれた人びとの 思いと当事者が見ていた世界とのずれが浮かび上がる。横顔しか見えなかった登場人 物たちの不器用だけど優しい感情が折り重なる。 事件は起きる。ネットでの個人情報のばらまきという陰湿な現代的事件である。と ころが、みな心に深い傷を負いながらも感受性がマヒしているかのように平静である。 助産師の母親とその補佐役を務めるみっちゃんの、生命への圧倒的な肯定が救いであ る。(SH)
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