قصة الكتاب :
文藝春秋/2014年/144ページ/本体1300円/ISBN 978-4-16-390101-5 柴崎 友香 1973年大阪府生まれ。2000年のデビュー作『きょうのできごと』が映画 化され話題に。2007年『その街の今は』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、 織田作之助大賞を受賞。2010年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、 2014年『春の庭』で芥川賞。著書に『ショートカット』『主題歌』など。
太郎は離婚を機に「ビューパレス サエキⅢ」というアパートに引っ越してきた。 取り壊しが予定されている旧い集合住宅で、一階と二階に8部屋ある。部屋はいずれ も狭く、入居者には独身者が多い。ある日、ふと見上げると、二階の女性が隣の水色 の住宅を覗き見していた。 彼女の名前は西といい、売れない漫画家である。学生の頃、偶然「春の庭」という 写真集を目にし、写されている住宅と家族の生活にすっかり魅了された。独り立ちし てからも忘れられず、ついにその家を探し当て、隣のアパートに入居したのだった。 この作品は入れ子構造になっている。西は、水色の住宅を建てたが手放すことになっ た夫婦の過去を探り、住宅の内部を見るために新しい住人と友達になる。そうした西 の行動を太郎がつぶさに観察している。最後に太郎の姉が登場し、彼らのことを外側 から見ている。だが、真の主人公は水色の家であり、「ビューパレス サエキⅢ」で あろう。本来、登場人物たちが活躍する舞台である空間が、この小説では主役になっ た。大胆な挑戦だが、作家は緻密な情景描写と、周到に計算された場面配置によって 見事に成功させた。 むろん、登場人物はただ通り過ぎるだけの脇役ではない。太郎も西も水色の住宅を 建てた夫婦も家庭崩壊を経験している。愛も家族も日常もガラスのように壊れやすい。 そのことが「家」の描写を通して情緒豊かに表現されている。この作品は傷痕の記憶 と癒しの旅をめぐる大人の童話でもある。(CK)
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