قصة الكتاب :
文藝春秋(文春文庫)/2012年/352ページ/本体580円/ISBN 978-4-16- 784901-6 中島 京子 1964年東京都生まれ。出版社勤務、フリーライターを経て2003年 『FUTON』で作家デビュー。2010年『小さいおうち』で直木賞、2014 年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞、2015年『かたづの!』で河 合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ賞を受賞。著書に『イトウの恋』『眺 望絶佳』など。
日本のエンタテインメント小説の賞としてはもっとも有名で、もっとも影響力が大 きい直木賞。2010年上半期の受賞作は中島京子の『小さいおうち』に決まった。 時は昭和初期、日本をめぐる情勢は緊迫しつつあるが、まだ本格的な戦争には至っ ていない時代。舞台は、東京郊外の私鉄駅近くに建てられた、赤い三角屋根の小さな 洋館。女中としてこの平井家に住み込み、働いてきたタキ。彼女は、晩年になってこ の家で暮らした懐かしい日々を回想し、ノートに綴っていく。そこでは、当時の中産 階級の優雅な暮らしぶりが柔らかい眼差しで捉えられ、回顧されていく。 ところが、この本の最後に、驚くべき「最終章」が付け加えられている。タキが亡 くなった後、回想ノートに書かれなかった事実が白日の下に晒される。それまでノス タルジックな回想物語に見えていた世界が一気に変貌し、そこに生身の人間ドラマが 立ち上がってくる。そのとき、驚きとともに深い感動が押し寄せてくる。読み終わっ た後、過ぎ去った時間の長さと登場してくる一人ひとりの気持ちに思いをはせて、し ばし呆然としてしまう。巧みな語り口、鮮やかなエンディング。直木賞にふさわしい、 完成度の高い傑作である。(MT)
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