قصة الكتاب :
新潮社/2013年/327ページ/本体1700円/ISBN 978-4-10-362208-6 島田 雅彦 1961年東京都生まれ。大学在学中に発表した『優しいサヨクのための嬉 遊曲』が芥川賞候補となり注目を集める。1984年『夢遊王国のための音 楽』で野間文芸新人賞、2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣 賞を受賞。著書に『英雄はそこにいる』など。
藤原道長は大手銀行の副支店長である。大型の商談をまとめ、正式の契約を控えた その日の朝、行方不明になった。妻の香子や娘の彰子が困惑しているところへ、振り 込まれる予定の五億円余りが相手会社の口座に入っていないことが発覚する。銀行側 はすぐに被害届を出し、警察も横領事件を視野に入れて捜査を始めた。 きっかけは企業買収をめぐる不正である。支店長の鋤田は中国人ブローカー呉芳童 と手を組み、粉飾決算をした企業の買収価格を吊り上げ、その分を手数料として受け 取ろうとしていた。見かねた道長は買収資金を震災復興のための融資や寄付に流用し、 鋤田と呉の隠ぺい工作や密約に関する書類の原本を持ち出したのだ。 警察からだけでなく、闇社会の魔手からも逃れようと道長はホームレスとなった。 都内や近郊を転々としたが、二カ月後、ついに呉芳童の手下の鈴木龍平につかまった。 道長から金を搾り上げると、証拠隠滅のために呉芳童は道長を生き埋めにした。そこ から物語は急転直下する。 この作品の最大の読み処はホームレスの生活についての描写である。タブロイド的 な筋展開も時事的な挿話も意図された仕掛けに過ぎない。上野公園をはじめ、浅草、 山谷などホームレスたちがたむろする場所や、山手線など鉄道の利用、山林での野宿 生活など、住所不定者たちの生態が生き生きと描かれている。華やかな都会世界の陰 に生活している人たちに光を当てた、珍しい作品である。(CK)
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