قصة الكتاب :
講談社(講談社文庫)/2004年/328ページ/本体590円/ISBN 978-4-06- 273989-4 浅田 次郎 1951年東京都生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、 1997年『鉄道員』で直木賞、2006年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞、 翌年同作品で司馬遼太郎賞、2010年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞 を受賞。2011年から日本ペンクラブ会長を務める。
日本の自衛隊は、憲法における位置づけや、最近成立したばかりの安保関連法制と の関係においてさまざまな議論を呼び、そのあり方が政治的に注目されている。しか し、そこに勤務する現場の人たちが何を考え、どのように生きているかについて具体 的かつ鮮やかに描いた文学作品は少ない。 浅田次郎の連作短編集『歩兵の本領』は、その意味では自衛隊員たちの日常を描き 出した数少ない貴重な作品である。浅田といえば、時代小説の分野で数々のベストセ ラー小説を書き、現在日本ペンクラブ会長を務める日本の小説界の重鎮の一人だが、 作家になる前の若い頃、自衛隊に勤務しており、本書は彼自身の経験・見聞に基づい たものだ。時代設定は1970年頃なので、いまの自衛隊とは相当に違う。当時の自衛隊 は「給料は法外に安く、環境はこのうえなく劣悪」で、そこに志願して入ってくる者 には「変わり者」や「何らかの事情で世間に身の置き所のなくなった若者」が多かっ た。他方、戦前からの帝国軍人たちもまだたくさん上官にはいて、旧来の陰湿な軍隊 の慣習が残っていた。 浅田はそういった素材を扱いながらも、本来の持ち味である巧みなストーリーテリ ングと、ユーモアと人情味あふれるタッチを生かして、自衛隊員であることの難しさ と職業的な誇りを見事に描き出している。(NM)
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