قصة الكتاب :
中央公論新社/2012年/528ページ/本体1800円/ISBN 978-4-12-004347-5 水村 美苗 1951年東京都生まれ。イェール大学で仏文学を専攻。プリンストン大学 などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』で芸術選奨文部科学大 臣新人賞、2003年『本格小説』で読売文学賞、2012年『母の遺産―新聞 小説』で大佛次郎賞を受賞。他の著書に『手紙、栞を添えて』など。
『母の遺産』は、50代の大学非常勤講師、美津紀を主人公とした長編で、高齢の母 の介護と夫の浮気という二つの軸を中心に展開していく。元芸者の娘である母は、自 由気まま、わがままでぜいたくな気質が最後まで抜けず、世話をしてくれる美津紀と その姉、奈津紀をふりまわし、へとへとにさせる。 その母が骨折による入院から、老人ホームでの生活を経て亡くなるまでの壮絶な 日々が描かれる一方で、夫の浮気を発見し、衝撃を受けながらも、母の遺産を活用し て自立し、夫と離婚することを決意する美津紀の姿が示される。下手をすれば陰惨に なりかねない重い題材だが、そこそこ裕福な人たちの暮らしを描く筆致はむしろ爽や かなくらい明快で現実感があり、いわゆる「ワーキングプア」とは対極的な日本の「い ま」のある一面をよく捉えている。母の死を告げる冒頭が、いきなり金の勘定ととも に始まるということも、この小説の戦略をよく示している。 なお、この作品は副題にわざわざ「新聞小説」という看板を掲げ、このジャンルに 対する一種のオマージュであることを宣言している。実際、この作品も読売新聞に1 年以上にわたって連載されたものだ。日本ではいまだに、長編小説の新聞連載が文学 において大きな意味を持っている。(NM)
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