قصة الكتاب :
文藝春秋(文春文庫)/2010年/336ページ/本体619円/ISBN 978-4-16- 768502-7 青来 有一(セイライ ユウイチ) 1958年長崎県生まれ。1995年「ジェロニモの十字架」で文學界新人賞、 2001年「聖水」で第124回芥川賞を受賞した。2007年『爆心』で第43回 谷崎潤一郎賞、第18回伊藤整文学賞受賞。その他の著作に『月夜見の島』 『眼球の毛』がある。
青来有一の作品は、ほとんどすべてが長崎を舞台にしている。しかし彼が「長崎の 作家」であるという場合、さらに二つ、はっきりした理由がある。ひとつは、1945年 8月9日の長崎への原爆投下という悲劇の記憶を、作品の中で受け継いでいること(青 来の両親は被爆者だが、彼自身は戦後生まれで、原爆投下の惨劇を自分で目撃したわ けではない)。そして、もうひとつは、彼が「隠れキリシタン」の伝統を強く意識し ていることである。日本では16世紀後半以来、フランシスコ・ザビエルなどの宣教を 通じてキリスト教徒が増えていったが、江戸時代にキリスト教は幕府によって禁止さ れた。しかし、長崎とその周辺では、多くの人びとが迫害を受けながらも、「隠れキ リシタン」として密かに信仰を守り続けたのだった。『爆心』という短編集にも、こ れら二つの特徴がくっきりと出ている。ここに収められた6つの作品はいずれも現代 の長崎を舞台にしたもので、被爆体験やキリシタン信仰が直接語られるわけではない。 ここに登場するのは、妄想にとりつかれて愛する妻を殺してしまう男、会った女性に 次々に惚れ込む知的障害者、青年との不倫の愛にふける人妻など、それぞれ問題を抱 えながら現代の長崎に生きる市井の人びとである。しかし、どの作品でも土地の記憶 のようなものがふっと甦る瞬間があり、それが長崎の現在に絡み合うことによって、 独自の「ポスト原爆文学」の世界を作りだしている。(NM)
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