قصة الكتاب :
集英社(集英社文庫)/2013年/205ページ/本体420円/ISBN 978-4-08- 745023-1 田中 慎弥(タナカ シンヤ) 1972年山口県生まれ。2005年「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞受賞。 2008年「蛹」で第34回川端康成文学賞を受賞、同年に作品集『切れた鎖』 で第21回三島由紀夫賞受賞。2012年、「共喰い」で第146回芥川賞を受賞。 「共喰い」は2013年に映画化。
17歳になる篠しの垣がき遠と おま馬は、父の円まどかとその内縁の妻・琴ことこ子と三人暮らし。父は性行為の ときに女を出血させるほど殴ったり、首を絞めつけたりする性癖がある。遠馬の実の 母・仁じんこ子は夫の暴力に耐えられず、遠馬の後に妊娠した二人目の子を堕胎し、円のも とを去った。 独り暮らしをしている仁子は遠馬の家からそう遠くないところで魚屋を営んでい る。彼女は空襲で右手を失い、義手を使って魚をさばいている。仁子のところに魚を もらいに行ったり、食事をしたりしている遠馬は、仁子から父親のことをよく耳にし、 彼は父のことを生理的に嫌っていながらも、自分も父と同じようになるのではないか と怯えている。不安は不幸にも的中し、恋人の千ちぐさ種との性交中に衝動的に彼女の顔を 殴った。遠馬がすっかり自己嫌悪で落ち込んでいるとき、琴子は妊娠したのをきっか けに円と手を切ることを決心する。狂乱した円は偶然、神社の境内で待っていた千種 に出会い、彼女を暴行してしまう。仁子は父殺しをしようする遠馬を止め、自らの手 で円を殺した。 一見、性と暴力の満ちたグロテスクで非条理な世界のようだが、豊かな文体と、幻 想とも現実とも区別がつかないような情景描写によって、独特の雰囲気と芸術的な香 りを醸し出している。山口県下関市と思しき街が作品の舞台になっているのも、血縁 の深み、抗しがたい運命に直面する少年の生を捉えるのに効果的である。人間関係の 濃密さと、それゆえの息苦しさのあいだで揺れ動く主人公の心が、閉塞感とともに痛々 しく描き出されているところが新鮮である。(CK)
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