قصة الكتاب :
講談社(講談社文庫)/2012年/320ページ/本体552円/ISBN 978-4-06- 277246-4 初出:「群像」2009年8月号 川上 未映子(カワカミ ミエコ) 1976年生まれ。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』でデビュー。 2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さ すわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年『ヘヴン』 で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。
『ヘヴン』は新進作家、川上未映子が、芥川賞を受賞してから1年半後に発表した新 作である。彼女にとって初めての本格的な長編であるだけでなく、これまでの彼女の 複雑でしばしば難解な文体からは予期できないほど単純で明快な文体で書かれてい て、この作家の新しい境地を切り開くものとして注目される。中心的なテーマは中学 校での激しい「いじめ」である。語り手である中学二年生(14歳)の少年は、斜視の せいで執しつよう拗にいじめられているのだが、抵抗しようともせず、されるがままだ。そん な彼が心を通わせるただ一人の友達は、やはり「不潔だ」としていじめられる同学年 の女の子だけだった。しかし、最後にはこの二人は騙だまされて公園に呼び出され、目を 覆いたくなるような凄せいさん惨ないじめの場面が展開する。このように『ヘヴン』は中学校 での「いじめ」を生々しくリアルに描いているが、その一方で、弱者にふるわれる暴 力をめぐる、ほとんど哲学的・宗教的な議論もここでは展開する。現代日本が抱える 社会問題を扱いながらも、そこからシンプルで深みのある作品を創り出した川上未映 子の才能には目覚ましいものがある。この作品によって、彼女は現代日本文学を切り 開くもっとも重要な若手作家の一人であることを決定的に印象付けたといえるだろ う。(NM)
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