قصة الكتاب :
中央公論新社(中公文庫)/2003年/728ページ/本体1238円/ISBN 978- 4-12-204270-4 初出:読売新聞朝刊にて1999年1月16日~2000年1月10日連載 池澤 夏樹(イケザワ ナツキ) 1945年生まれ。翻訳家、詩人として執筆活動を始める。1988年『スティル・ライフ』で第98回芥 川賞受賞。1993年『マシアス・ギリの失脚』で第29回谷崎潤一郎賞を受賞。『世界文学全集』全 30巻を2007年~2011年にかけて個人編集した。2001年『すばらしい新世界』で芸術選奨文部科学 大臣賞受賞。
自然エネルギーで今後どれくらいの発電量を見込めるか。2011年の東日本大震災と 福島第一原発事故の後、日本でも真剣な検討が始まっているが、風力発電が未来を開 く可能性をめぐるこの長編は、すでに1999年、新聞の連載小説として発表されている。 主人公、天野林太郎は原子力発電事業にもかかわる、電力機器メーカーの中堅社員。 彼は自分で設計した小型風力発電機を、ネパールの奥地まで設置しに行く。彼の夢は 壮大だ。 「家ごとに蓄電池を備えて使用量を平均化すれば、ピークに合わせて発電所を作ら なくて済む」 「超電導のグローバル送電網や、砂漠に造る大規模な太陽光発電所もいい」 林太郎は、友人の米国人ジャーナリストと、まさにフクシマ後の世界で実用化が待 たれる構想を10年以上前に思い描いていた。林太郎の妻、アユミも快適でこぎれいな 東京の生活に「どこか、不安」を感じ、環境問題へ関心を高め、実践に乗り出す。 そしてこの長編の続編『光の指で触れよ』(2008年)では、アユミが渡り歩くヨーロッ パ各地の農業コミューンの活動を通じて、21世紀の、このままでは持続不可能に陥っ てきている先進各国の大量消費社会の現状に、大いなる異議を作者は訴えかけている。 とはいえ、林太郎とアユミとその息子、森介らによる日常のやりとりは、けっして 理屈っぽくなく、とても愉快で人間的で、この2作を通じて成長していく10代の若者、 森介の両親とのいさかいや初々しい男女交際など、細部のエピソードも読み応えがあ る。(OM)
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