قصة الكتاب :
(『IP/NN 阿部和重 傑作集』に所収)講談社(講談社文庫)/2011年/392 ページ/本体676円/ISBN 978-4-06-277040-8 初出:「新潮」1997年3月号 阿部 和重(アベ カズシゲ) 1968年生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。1994年に『ア メリカの夜』で第37回群像新人文学賞を受賞。2004年『グランド・フィ ナーレ』で第132回芥川賞受賞。2004年『シンセミア』で伊藤整文学賞・ 毎日出版文化賞をダブル受賞。2010年『ピストルズ』で第46回谷崎潤一 郎賞を受賞。
東京でもっとも刺激に満ちた若者文化の中心地、渋谷。本書の主人公オヌマは渋谷 の映画館に勤める青年映写技師である。彼には以前、スパイ養成塾で5年間にわたり 訓練を受けたという秘密があった。その当時の仲間たちの交通事故死を報じる新聞記 事を読んだ日から、平穏だった彼の日常に不穏な影が差し始める。何者かによる尾行、 暴力団関係者とのいざこざ、そしてスパイ養成塾時代の仲間だった男から預かった謎 のフィルム。それらすべての裏には、かつてスパイ養成塾の塾長が暴力団経由で入手 した「核爆弾」のゆくえが絡んでいるのか? 物語はオヌマの日記という体裁を取っており、すべては彼の視点から描かれている。 その内容は次第に妄想的な色彩を強め、読者もまた、危険な気配に満ちた物語の渦に 巻きこまれていく。オヌマの「分身」のごとき人物たちが跋ば っこ扈し、真実と虚言の境い 目がおぼろになっていく中、やがて不思議な幕切れが訪れる。シャープで歯切れのい い文体、暴力を見据える強きょうじん靱な思考、そして現代都市の荒涼をみごとにつかみ取る感 性によって、本書は新しい日本文学の誕生を象徴する一作となった。(NK)
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